ジョイフル (6)

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※※ フィクションです ※※

「あいつ、トラザンってネームなんだけど…。あいつね、機内で動画撮っちゃって。ほら、新しい飛行機あるでしょ。カメね。初号機の目つきがこわいカメ。そう、あれね。それで、他のお客さんの顔、写ってるまま、ユーチューブアップしちゃったみたいで。それで、写った人が弁護士なのか、なにか法律に詳しいひとだったみたいで、すごい苦情になって、青に対しての苦情や、訴訟もするからと、大問題になってるみたいなんですよ。」

目の前のビールをぐいっと一口飲んでヤブローさんは続けた。

「その弁護士が、うまいのかおかしいのか、青に対して、顧客が快適に過ごすように配慮が足りないと、大クレームをして。そうしたら、青からトラザンに警告文がきちゃったみたいで。」

「えー。なにそれ、出禁?」

「いや、それはないみたいだけれど、次回またあったら、マイレージアカウント閉鎖、もちろん、マイレージステイタスの剥奪と、マイルのボッシュート。第三者に迷惑かけるなら搭乗拒否?ブラックリスト入りとトラザンは言ってる。あ、そうか、ブラックリスト入れるから、出禁ってことか。そういう意味合いの文書だったんだって。」

「やるなぁ。毅然としている。法務がしっかり強気な会社なんだなぁ。」

「あー、あかあおさんの目にはそう映るか。それもわかるな。でも、俺ら、この間一緒にいた残り3人が震えちゃってるのよ。俺も含めて。航空会社が客を出禁にするか?って。だって私企業とはいえ、公共交通機関でしょう。でも、あちらの胸三寸だよね。結構いつも一緒にラウンジ入室しているから、同類と見なされてたら、俺、マークされるでしょ?」

「ああー、それはあり得ますね。入室は綿密に管理してると思いますよ。簡単だろうし。」

「でしょう?素人でも想像つく。」

「ですね。」

「うん。それでもうマークされてると思ったほうがいいと思うわけよ。どう?」

「ですね。ラウンジの入室ですね。防犯カメラまで連動して参照して、番号と顔を含めた容姿まで、照合しているとは思い難い…。つまり、チェックされているのは、入室時のチェック項目、搭乗券に含まれているすべての情報ですよね。同行者の会員番号は洗い出しされていてもふしぎじゃないよなぁ。すべてにやっているとは思い難いけれど、そういうトラブルケースでは、洗い出し、あってもふしぎじゃないなぁ。」

「そこなのよ。やっぱりそうだよね。」

「顔まで照合してるというのは、それこそ個人情報やらにかかわるだろうし、うん、やっぱり、ちょっと想像しがたいし、一般社員が軽々しく扱えるものじゃないでしょうけれど、入室のデータはもうあたりまえのように取得してるし、同行者の情報も…、ねぇ。ただ、だからといって、ヤブローさんになにか警告するわけではないですよ。それは大丈夫でしょう。ヤブローさん、ユーチューバーじゃないでしょう?」

「そうか。もちろん、俺、動画の編集とかすごく苦手だからムリムリ。でさ。普通、おとなしくしようと思うじゃない?普通ね。でも、トラザン、ビビった挙句に、なぜか、開き直ってるわけ。受けて立つって。」

「は?」

「自分なりにググったみたい。それに文句を言った人が弁護士かどうかというのも噂でしかないから、ハッタリだろうし、って。それに、ちょっと意味わからないけれど、写っていると指摘された動画を見直したら、たぶん、この人が文句言ったのだろうなという人、女性らしいけれど、めっちゃ年下の男性と一緒だったことを思い出したんだって。それで、トラザン的には、むこうの方がやましいから怒ってるし、苦情にして、とにかく動画消させるつもりで、騒いでるって判断したんだって。」

「なんか。すごい調査力と記憶力。努力の方向音痴な様相がかなり強めですね、トラザンさん。すみません、ヤブローさんが仲良くしてるひとを悪く言っちゃって。」

「いいのよ。実際、俺も、かなり、えっ、って引いてるし。それで、トラザンは、その動画、結構観られていて消したくないし、ユーチューブも登録者数がやっと2,000超えたから、消したくないし、辞めたくないって。表現の自由を奪うなって息巻いてる。知ったかして、表現の不自由とまで言っていて、なんだかもううんざりというか。え?そこ?って感じで。」

「んー、なんとも。」

「でしょう。どうなるかわらかないから、俺、とばっちり嫌だし、もう、なるべくつるまないほうがいいよね?」

「ですねー。そのトラザンさんに義理がなければ、まあ、あまり…、ねぇ。」

「やっぱりよかった。あかあおさんに聞いて。常識人だもんね。ラウンジは一緒に入らない、なるべくフライトは一緒にしない、あとなんだろう?」

「うーん。用心するなら、目につくSNSでの交流を減らすことと、あとは、今後の自衛策として、ラウンジ自体、純粋な同行者以外は一緒に入らないというのもあるかも。知り合いならまだしも、たまたまいた人とか、誰かを招待というのを避けておいた方が無難かも。ルール上で、OKだとしても、相手の人、招待した人がどんな振る舞いするかわからないし。それで、動画とか撮りはじめても、下手したらもうこっちもアウトでしょう?ちょっと臆病で用心しすぎかもしれないけれど。それに、ご招待ってかっこいいから俺もやってみたかったのだけれどもう考えないでおきます。」

「あー、なるほどなるほど。危機管理的なってかんじな。」

「でも思い切ったな。想像だけれど、その文句を言った人、航空会社に責任を問うたんですね。的外れのような気もするし、その人が重要顧客だったらめちゃ効果あるようにも思うわ。結構大事になりましたね。たかがユーチューブで。あ、そのトラザンさんって会社員?」

「そうなのよ。社畜東阪往復でpp稼いでダイヤ。それで休みにユーチューブだからね。」

「会社同士の運賃契約とかありそうですね。規模にもよりますけれど。もしあったら、本業の方で肩身の狭い思いをすることにならなければいいけれどなぁ。」

「そんなこともあるのか。よかった。あかあおさんに話してみて。これとりあえず、ここだけの話にしてください。すぐに、トラザンが自分で言いふらすと思いますが、それまでは、どこからか聞いたとしても、初めて聞いた顔してください。俺、ちょっとあいつらと距離置いてこじんまり飛びますわ。あかあおさんも気をつけてください。だれかをご招待、というも本当に難しい。SNSも完全匿名なんかないし。一流企業の力を持ってしたらあっという間に特定されちゃいそうだよ。

あー、でも、話して、ちょっとすっきりした。じゃ、俺、そろそろ。すみません、話し逃げするみたいで。また、何かあったら報告させてください。」

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