ジョイフル (13)

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※※ フィクションです。実在のモデルはいません。フィクション ※※


「まあまあ。ほら、二人がヒートアップすると、みるるさんも、エリーさんも困っちゃうし。大人なんだから。お互い思うことはあってもこの場はもうお願いしますよ。」

ハラトビさんが仲裁に入った時に、やっと、俺らが戻ってきたことに気付いたようだった。

ドアを開けてから、杏さんはずっと俺らのうしろに隠れているし、みるるさんも、そしてもう一人、たぶん、エリーさんは固まっていたのに、こちらに駆け寄って、うしろに隠れた。

けうけむさんも気づいたようで、

「あっ、なんだ?キモマ砂原までいるの?なにこれ?罠?おい、シャンクス、旧名瀬戸わんたん住之江区在住、本名 笠倉太一、おい、かさくら、お前が私が嫌いな人間集めたのかキモマはここ3か月で会った中で嫌いな人ベストワンだよ。もちろん、瀬戸わんたん、お前は殿堂入りだよっ

と青筋たてながら怒鳴っている。今日も腰みのスカートで、青筋たてて叫んでいる様子は、どうみても戦士の雄叫び。オールブラックスのハカより迫力ある。俺、思わず、呼び捨てされたたことに気づかないくらいだった。

でも、キモマ砂原といいながら、あの1本口ひげがあった場所を人差し指で軽く触ったことを俺は見逃さなかった。ふふ。あそこ、いつも剛毛口ひげが生えて来ちゃうんだな。きっと。パブロフの犬みたい。ベル鳴らすとよだれだら~俺見ると、ひげさわさわ。笑っちゃうわ。

The Greatest haka EVER?

けうけむさんの熱量に対して、俺は妙に冷静で、けうけむさんの狙いをすぐつかむことができた。俺を煽って、シャンクスさんと自分のやり合いを飛び火させ、願わくば相討ちにでもなればいいと思っているのだろう。そうすることで、最悪でも、シャンクスさんか俺のどちらかが崩れることになる。恥をかくのは俺かシャンクスさんという構図にしたいんだ。そりゃ、殿堂入りと、ここ3か月のベストワンが相討ちしてくれたらハッピー・ジョイフルだよな。

でも、ごめん、俺、KULで言い過ぎたかなという想いがあるから、今日はなにも言わない。けうけむさんは透明人間。あのときからもう透明人間。KULに置いてきた地縛霊。俺、なにも言わない。未来永劫、顔を見てもなにも言わない。でもあり方はお前には合わせない。譲らない。俺は俺のやりたいことをやる。ありたい姿でいる。言いたいことを一発言ってやる。俺イズ俺。息を吸い込んで大きな声で言ってやる。その時、

さー。ドリンク買ってきましたぁ。さっき、あまり話せなかったから、仕切り直しでやりましょう。

といつになく大きな声で割って入ったのは、くぅさんだった。

「ハラトビさん、怒鳴り合いたい人は、ほら、こっちのバスルーム、おっ、ビューバスですよ、こっちに行ってもらって、勝手にやってもらいましょう。おっ、ジャクージもついてる。いっそのことお二人で入りながら罵り合ったらいかがですか?ハダカのつきあいで♡なんちゃって~。さあ、手伝ってください。ハラトビさん、お二人にはこちらに移動してもらいましょう。はいはいはい。どうぞどうぞ。お好きにどうぞ。

と言って、シャンクスさんとけうけむさん、二人の手を強引にぐいっと引っ張ってバスルームに押し込んだ。そして、ドアを閉めて、テーブルの上におもむろにファミマで買ったドリンクを出した。

「あんまりつまむものがなかったのですが、色もかわいいし、マカロン買いました。女性はこういうの、コンビニスイーツでも許してくれますよね?ははは。フルーツもあります。」

と笑いながら並べ始めた。そして、さらにやさしい笑顔で

「えーっと、あっ、エリーさんですよね♪エリーさんははじめまして、ですよね。くぅといいます。こっちはあかあおさん。二人とも今日は東京からの参加です。といっても、本当は、僕は神奈川、あかあおさんはさいたまです。へへへ。羽田ベースなので東京ということで、よろしくお願いしまぁす。

あんな怒声、聞きたくないモノを聞いちゃいましたね、ジャングルみたいでしたねぇ。ホントみなさん。災難でしたね。さ。カンパイしましょう。あれっ、グラスないかな。でもまあ、缶から直飲みでも。とにかくカンパイして、はじめましてのごあいさつ、しましょ。」

と言い、杏さん、みるるさんの肩をぽんとたたいて、ソファーに座るよう促した。二人は顔を見合わせながらもほっとした表情にかわり、ソファーに座った。

ハラトビさんは、バスルームに入っていき、ドアをあけたまま話始めた。

けうけむさんとシャンクスさんは、くぅさんにからかわれたと思っているのか、鬼の形相でくぅさんをにらんでいる。二人とも同じ顔になってる。やっぱり二人そっくり。

「どうしますか?いたたまれないでしょう。ここに二人でいても。それに言い合いしても仕方ないでしょう?んー。今さら、あちらに入ってまた歓談というわけにもいかないでしょうから、今日は、お二人は帰ってください。それでいいですよね。」

「てか、瀬戸わんたんがいけないんだよ。もともと、こいつが、ウチの研究室に怪文書送ってきたし、ウチの個人情報をあさるし、まわりに言いふらすし。確かに、就職できなかったよ、うちは。マスコミは無理だったよ。でも、別に迷惑かけてないじゃん。なのに、こいつが先にやったんだよ。シャンクスこと、せとわんたんこと、カサクラタイチが絡んでこなければ、ふつうに楽しく旅行を考えているサオリんでいられたんだよ。論破なんか1ミクロンもされてないし。やっと通信終えた奴に、SFCが論破されないし。そのあとも、ずーーーっとストーカーみたいに論破しただの言いまわって、行動見張ってるし。ストーカーかよ、ほんとストーカー震えるわ。何回110番しようかと思ったか。」

「そんなことしてません。」

「いや。してるし。スクショ。証拠あるし。」

「してないし。むしろ、サカモト、お前が俺の学歴をああだのこうだの言って回ってるやん。お前は確かにSFCで湘南藤沢からの大学院に行ってる。それは知ってるわ。せやけど、いまだ修士終えてないし、就職も決まってないし、指導教授もお手上げってうわさやけれどなっ。ふんっ。俺は、高校の偏差値は43だしな、現役では落ちて、通信もやっと去年卒業や。でもええやん。別にどっちでも。三田会まで探ることないやんか。そんなに通信あかんの?なんで?同じ慶応卒やんか。なんで?それに、お前、個人情報探り過ぎや。あかあおさんのこともなんでLINEグループに書くん?スクショの証拠さっき、あかあおさんに見せたった。お前、意味不明や。いつまでもねちねちうるさいわ。訴えられたらええねん。」

ふぅっと大きなため息をついて、ハラトビさんが悲しそうな顔をしながら言った。

「いや、お二人とも、同じですよ。地獄で両成敗レベルで同じ。マロンさん、あ、けうけむさんのほうがいいですか?けうけむさんがあかあおさんに対していまだにいろいろやってること、それ、今あなたが言ったことそのまんまじゃない。あーてぃーだびゅが好きで、航空旅行が好きで、そこに学歴関係ありますか?おふたりとも?」

「……」

「もういい加減にしましょう。今日でお互い、存在を消しあいなさいよ。さあ、一緒に部屋をでますか?ばつが悪いなら、タイミングずらして部屋出てもいいですよ。先に出た方は待ち伏せなどしないでくださいね。どうします?」

「わしはハラトビさんと5年のつきあいや。」

「わたし帰ります。帰ればいいんですよねっ。ハラトビさんの顔をたてます。ハラトビさんにはいろいろ学びたいことあるし。ハラトビさんには嫌われたくないので。それに、キモマ、あ、あかあおさんもいて、居心地悪いし。エリーさーん、一緒に帰ろう?」

「やめなさい。エリーさんは残ってもいいんですよ。むしろ、残っていただきたいです。せっかくいらしてくれて、まだほとんどお話もできていない。このまま帰られたら、エリーさんは福岡に良い印象を持てなくなる。それはいけない。是が非でもこの地獄両成敗の雰囲気を払しょくしたい。福岡マイラーのためにも。」

とハラトビさんがはっきり言った。エリーさんも、

「マロンさん、ごめんなさい。あたしはもう少し残りたい…。」

と答えた。

「さ。マロンさん。あなた、ストーカー怖いんでしょう?シャンクスさんを先に帰して待ち伏せされたら怖いでしょうから、あなた、先に行きなさい。いいですね。はい、お疲れさま。バスもあるでしょう。地下鉄の駅まで歩けるし。じゃあ、気を付けて。あなたもシャンクスさんを待ち伏せなどしたらダメよ。それはわかりますね。」

といい、身体にはふれないように、けうけむさんを部屋から追い出した。これこそ棒読みというカンジだった。ハラトビさんは、シャンクスさんに向き合って、

「シャンクスさんも、今日はもうこれでお引き取りで。会費でいただいた2,000円、はい、お返ししますね。ちょっと待ってくださいね。えーっと、財布財布。

あと2,30分くらいしたらここ出てください。それまでは、あっちのデスクの方をおひとりでお使いください。みんな女性陣も震えていますから。あんな怒声、だれだって聞きたくない。シャンクスさんもストーカーと変な疑いかけられるの嫌でしょう?だからわざと時間差作ってください。」

いや、あの人いなくなったから、わし、帰らなくてもええんちゃいます?

「シャンクスさん、往生際悪いですよ。今日はもういいでしょう。ほら、みんなあなたのことを腫物を触る目で見てますよ。正直いうと、私はシャンクスさんのお人柄は理解しているつもりですが、今、この瞬間、この部屋にいるヒト、誰一人としてあなたを快くは思っていない。私を含めて。

ハラトビさんは毅然と言った。そして、財布から2,000円を出して、シャンクスさんに渡した。

「まさかのまさかの確認ですが、さっきのやりとりなど写真撮ったり、今も、録音していたりしませんよね?それを阻止する法律はないかもしれませんが、自分の都合の良いように人に見せたり、二次創作はしないでくださいね。ここにいる誰一人として、今日はあなたには論破されていませんから。いいですね。もしそんなことをしたら、シャンクスさんと私の5年の付き合いを裏切ることになりますからね。いくらでも私をぼけた長老って言っていただいても構いませんが、ここにいる誰一人もあなたには論破されていません。いいですね。さあ、時間置くために、なにか飲んで。アルコールじゃなくて、お水でも飲んで、身支度整えて、それで今日はおひきとりくださいな。」

「ハラトビさんを裏切ったことはないです。わし、誰も裏切ってないですよ。わしは曲がったことが嫌いですから。そこは信じてください。」

「わかりました。私も信じたいですよ。信じられるシャンクスさんでいてくださいよ。」

「今日はハラトビさんとは話せませんでしたが、言うこと受け入れますわ。あかあおさんがあまりに無頓着だったから、わしが忠告するのに時間取られましたわ。ほんま、初心者勘弁やわ。サカモともええ加減にしてほしいわ。

あっ、あれ、わしが持ってきたヴーヴ・クリコ。栓して、残り持って帰りますわ。あれ、まだ半分以上残っているはずですわ。

「はい、どうぞどうぞ。気づかなくて申し訳なかった。あと、あかあおさんは大切な私のゲストですから、ああだのこうだのいうのはもうやめてください。そして、もし、ヴーヴ、飲んだ分、負担しろというならば、新しいの買ってお送りしますよ。住之江区なんですか?なんなら、そちらに送りますよ。あるいは、今、残量を写真とって、だいたい飲んだ分の単価計算しますから、その差額を送ってもいいですよ。送金しますよ。これでシャンクスさんが文句を言ったり、だれかに話をねつ造して言う余地はないですよね。会費も返しました。あなたがおみやげとして渡したヴーヴもちゃんと割り勘にした。文句ないですね。ふぅ。」

とハラトビさんは冷たく言い放った。

マカロンを買ったのは大正解だった。コンビニスイーツでもニコニコしながらおいしいと言ってくれる杏さん、やさしいな。杏さんとは、ハンバーガーを食べる会をいつか信頼できるひととこっそりやろうと約束をした。ギネスに挑戦はいろんな人が来ちゃって危険だと悟ったって。だからこっそりやろうって。

エリーさんはビックリ、お母様の年齢が俺と3歳しかちがわない。それで、23歳社会人一年生のお嬢さんがいるなんて。

「ヤンキーだったみたいです。だから結婚も早かったと言ってました~。フフフ。」

と屈託なく笑うエリーさん。こういう子がオフィスにいると雰囲気も和やかになるよね。札幌支店にひとり欲しいところだ。

みるるさんは、あと少しでANAのブロンズだって。早いスピードで修行している人を見ると気持ちは焦るけれど、12月までにプラチナになれるようもう予約済みだから気にしないと言っていた。ただ、オフ会は、選んで出ないと、今日みたいなことに遭遇するのはもう嫌だからと言っていた。ただ、よい勉強になったし、早い段階でそれに気づくことができたのは収穫だとも言ってくれていた。今日はバスできたけれど、今度みんなで熊本に来てくれたら案内したいとも言ってくれた。

ハラトビさんは、それを聞いてほっとした顔をしていた、みるるさんんが、いまひとつスカイスキャナ―の上手な使い方がわからないと悩みにも、わかりやすく丁寧に教えてあげていた。

あの二人がいなくなった後は穏やかな時間が流れた。穏やかな時間は過ぎていくのも早く、外は暗くなっていた。

「今度、東京でも是非。」

と言って、ハラトビさんのお部屋をおいとました。くぅさんと地下鉄まで歩きながら、

「ちょっと疲れましたね。」

とお互い言い合って笑った。

「明日は、フライトまでは別々にして、空港で適当に落ち合いましょうか。」

と有難い提案をくぅさんがしてくれた。うん、そのほうがいいかも。ちょっと明日はゆっくりしてから帰りたい。明後日から仕事だし。

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