俺はオフ会のために海外に行く (7)

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意外なことにてきぱきと、次々と料理が運ばれてきた。俺、小籠包も好きだけど、実は酸辣湯が一番好き。よかった。ちゃんとラリッパさん、オーダーしてくれている。ラリッパさん、結構気配り派だな。酸辣湯は好きな人多いだろうから、ちゃんと人数分均等になるようにシェアしないと不公平になる。ヤブローさんが来るなら、ヤブローさんの分もとりわけておかないと。

えっ。あれ。でも、そんなことお構いなしで、けうけむさんはどんどん食べ始めている。

あまり話さず、あいづちもしないまま、もくもくと小籠包を食べていた。酸辣湯も自分の分だけ。自分の分をとったあとも、まわりに、どうぞ、とも言わない。すごい食欲だ。食欲と協調性が反比例してるな、この人。

本店のほうがずっとおいしいかも。

は?今目の前にあるものと、遠く離れた台北のものを比べても意味ないじゃん。俺、台北行ったことないし、食ったことないし。はぁ!ソーワット!この瞬間に手にできないものと比較する意味は??それ言うヒマあったら酸辣湯取り分けしろよ!

おっと、いけないいけない。まるでみどりがキレたときと同じだ。これじゃ。それに女性に対して食事のとり分けを強要するそれはセクハラだ。うん、冷静になれ、俺、砂原浩次。

でもやっぱり気になる。シェアや気遣いもしないで、食べ進めて、本店がおいしいとかお前何様?そういう人なんだな。仕方ない。あ、それに、ラリッパさんもフランソワーズさんも気にしてないみたい。二人は、明日のランチとエステとアフターヌーンティーの話題に夢中。俺がちゃんとけうけむさんを受けとめないといけないと思ったので、「そんなに食ったのによく言うな」と思ったのは飲みこんで、「そうなんだー。今度、嫁氏と台湾行こうと思ってるからいろいろ教えてくださいよ。」と努めて明るく答えた。その時に、けうけむさんが、小籠包から目を離して、上目づかいに俺をチラリと見たのはちょっと気分が良くなかった。

なんか海外オフ会って言ってもこんなスタートだと胸躍らないなぁ。初オフだったカレパの時はもっと盛り上がったのに。なんだろうか。これ。でも、初対面だから気遣いは大切。それは常識だよね。

ちょっと食べ足りないでしょう、とラリッパさんが言って、追加した小籠包が来る前に、ヤブローさんが、「どうも~」と言って店内に入ってきた。あ、やっぱり、4人組の一人だ。いきなり、俺に視線ロックオンで、

「いやー、赤青さん。話したかったんですよー。ラウンジにいるときも、優先並んでいる時も気になったのですが、いきなり話しかけても変な人になっちゃうし。正直うちら騒がしかったから同類って観られてもいやかな、とかね。あらためて、ヤブローです。はじめましてー。」

とことのほか明るくそして大きな声で言ったので、もう俺はそれを受け入れるほかなかった。

「ヤブローさん、紫ダイヤなんですよね。いつも見てます。すっごいですよねー。」

軽いウソをまぜて返答した。すぐに座って、シェアされていない酸辣湯に、

「おっ。さすが、ラリッパさんのオーダーでしょ。俺の好みわかってますね。酸辣湯、これ食べないとディン活した気になれない。これ、出遅れなんで俺全部、いただいちゃっていいですか?」

と酸辣湯を自分の前にぐいっと引き寄せて、直ツッコミしてもふもふ食べ始めた

え?俺、まだ、シェアしてもらってないのに。俺も酸辣湯大好きなのに…。

まいっか。こんな小さなこと気にしても仕方ない。酸辣湯はヤブローさんに任せるよ…。

口の周りについた酸辣湯を拭くこともしないで、

「そんで、だらほんはいまどこ?もうシンガでてるっしょ?」

とヤブローさんがラリッパさんに話しかけた。すぐさま、フランソワーズさんが、

フライトレーダーでみると、もうすぐ着陸っぽいよ。」

と割って入った。何?フライトレーザーって?俺しらない。メモってあとでぐぐらなきゃ。やっぱり海外オフ来て良かったかも。今まで知らなかったフライトレーザー?を知るきっかけになる。フライトレーザーか、覚えていられるかな。でもあとで調べよう。人生いつまでも学びだね。

それに、$honさんが、「だらほん」と読むこと尋ねるまでもなく知ることができた。な。ヤブローさんに対して、お行儀が悪いという印象のみで向き合っていたらこの情報は得られなかった。ネガティブは良くないよ。みんないいところはあるんだ。みどりだって、いいところたくさんある。ゴスペルを始めて今までのような口うるささも減ったしね。

結局パビリオンには小一時間滞在。その間、色々なことが見えてきた。けうけむさんは、台湾に留学経験のある大学院生。専攻は国文学なんだって。ヤブローさんは、ラリッパさん、フランソワーズさんと複数回会ったことがあり、島根でリサイクルショップを経営しているそうだ。経営といってもしっかり者の嫁さんとそのお義父さんが仕切っているみたい。お義父さんが初代社長で、二代目ということだけれども、嫁さんのやりたいようにさせておけば自由に動けるからって言ってた。うちと似てるかも。

そのあたりから、ヤブローさんがやけにぐいぐいと俺にロックオンしてきて、明日の朝はグランドハイアットまで行って朝食をとることと、そのままちょっと適当にすごして、昼の中華までフランソワーズさんともご一緒することになった。ハブられてなかった良かった。その流れでついつい、

「あ、JALって夜ですよね。もし、その後、KLIAまで電車なら、出発前、荷物もルメリで預かりますよ。出かける前のシャワーも使います?俺、今回2泊なんで。」

なんて言ってしまった。ヤブローさんはすぐさま嬉しそうな顔をして、

「うわあ。めちゃありがたい。ラウンジのシャワーよりホテルのほうがいいし。荷物もグラハイに戻るよりラク。そのあと、セントラルから行ける。お言葉に甘えます。」

と俺が後悔するヒマもないくらいのなめらかさで言った。

ま。いっか。俺にとってはなにも損はないし。情けは人のためならずって死んだばあちゃんも言ってたし。でも待てよ、なんで、けうけむさんは誘われないわけ?

鼎泰豊を出た後も、初対面なのに、フランソワーズさんが遠慮なく話し続けていてちょっと困った。誰もあえてけうけむさんにはかかわろうとしない。でも話してる内容は他愛ないこと。旅のことやオトクなマイルのことではなく、ほとんどが、オフ会で会った人の話だった。あとは自分のこと。プライバシーに踏み込むことはいけないと思っていたけれど、どんどん自己開示していく。

しかし、その話もちょっとおかしかった。いや、かわいらしいカンジ。素直だったな。銀座に住んでいるということだったのに、よくよく聞いてみると潮見だった。てか、潮見は銀座じゃないし。湾岸マンションと言っていたのも、実は20年落ちの、海が最上階からだけは見えるマンションだということも屈託なく話していた。

ご主人はエンジニアだったのに役職定年をして、関連会社に行ったけれど、そこでの仕事が合わなくて退職しちゃったんだって。まあ人生いろいろだし、あまり深入りしても何もできないから、「そうなんですか。いろいろお考えがあるのでしょうね。」と丁寧に返事をしておいた。その丁寧な返事がツボったのか、ますます家庭の事情を話しだして、「やべぇ、聞こえないふりをしておけばよかった」と後悔した。みんな話相手欲しがってるんだな。

でも一瞬だけ真顔になって、小さな声で俺にだけ言った。

「けうけむに、プライベートなこと話しちゃだめだよ。けいけむとつながってるぱろんさん、知ってるでしょ?ぱろんさんと、YUURIママさんがこの間もめたの、あれ、もとはと言えばけうけむがきっかけだから。カンパイベイベーでその場だけと言ったことを言いふらして、ぱろんさんに掲示板に書かせた。

人に話していいことと、悪いこと、区別つかないのよ。あの子。良く言えばマイペース。でも良くはもう思えないレベル。だから私も、当たらず障らずで流してる。今日のスイート・オフ会まで。今回も、ラリッパさんが断れなくって来ちゃったし。ラリッパさんもそうだけど、赤青さんも、人がいいから気を付けて。」

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