「やられちゃいましたね。」
と書いてあって、何の事かと思ったら、俺のスーツケースの画像がその匿名掲示板にアップされているスクリーンショットが添付されていた。くぅさんは俺のスーツケースを知っているからすぐにわかったみたい。
「え?どういうこと?」
と日本時間からすると遅いけれど、レスをしてみた。すぐに既読になって、
「どこかで撮られたんでしょう、きっと。『しつこい、帰してくれない』って書いてありますね。まるで、部屋に連れ込んでしつこくしているように取れますね。ただ、これが赤青さんのものでKULで撮ったものだとはわからないでしょうけれど、これは、悪意に満ちてますよね。あんまり反応はないけれど。なんかしたんですか?笑」
「ないない。頼まれてもない。むしろ、みんながけうけむさんによそよそしかったから、俺、ちゃんとケアしたし。さっきちょっと早めにオフ終わったんですが、一緒に部屋でて誤解されても困るので、先に出て来ちゃいましたよ。確かに部屋を見たいと言うから、部屋に入れて、もちろん、ドアもしめなかったけれど。いつの間にか画像撮ったのか。」
「意味わからないですね。」
「はい。でももう会わないので、このまま二度と関わらなければいいのかな。ラリッパさんも$honさんも普通の社会人だったよ。フランソワーズさんはちょっとおっちょこちょいだけど憎めない。ヤブローさんは明日、朝食とランチ一緒にする。」
「おー、じゃ、今日は早めに寝たほうがいいですね。お疲れ様です。何かあったらすぐにLINEしてください。」
「ありがとう。おやすみなさい。」
と〆て、早めに寝ることにした。
KUL2日目の朝。3日目は、ラウンジで朝食いただく時間もないので、ちょっとだけラウンジの様子を見に行った。それで、grabで、グランドハイアットまで行った。KLCCが目の前にあって壮観。そんな景色を眺めながら朝食いただけるなんて思ってもみなかった。
ヤブローさんとはゆっくりと話しながら朝食をとった。スイートラウンジにいた他の3人はみんなダイヤで別々の場所に向かったとのこと。ヤブローさんは、毎年、ダブルダイヤをやろうと思うので、どうしてもKULを使うことになると言っていた。
「すごいですね。サラリーマンにはできないや。」
と言うと、
「それはそうかもしれませんね。あと出張があればまだ違うのでしょうがね。ところで、昨日のオフ会どうでした?あの問題児が何か変なことしませんでしたか?」
「は?問題児?」
「ええ。けうけむさん。あの子、院生と言ってるけれど、研究している様子ないし、一年中ヒマだし。誘ってないのにオフ会来ちゃうし。マッチポンプのようなツイートして、炎上して、周りの人間関係を破壊していくクセもある。今回も、オフの存在をどこからか聞きつけて、ラリッパさんが断らないことをいいことにきちゃったんですよ。」
「ああ、そうなんですか。」
既に知っていたことでもあえて初めて聞いたような振りをした。ただ、良い年した大人が20歳代の子を悪くいうのはなんだかすっきりしない。スーツケースを悪意で晒されても、付和雷同的に陰口を言うのはすっきりしない。それが俺の甘いところなんだろうな。
「今日午後一で香港に行くみたいだから、朝をうまくかわさないと、タダ飯、って来ちゃうかと思って、申し訳ないけれど赤青さんに来てもらったんですよ。まあ、ここの朝食は、そんなにみっともなくないので、来ていただいても喜んでいただけると思ったんですけどね。破壊するくせに、甘えられてコジコジできるところは平気でのっかってくるんです。あと、勝手にどうでもいい噂も流すし。」
いやいやいやいやいや、あんただって、スイートラウンジで、誰がどうしたって大きな声で話していたじゃん。それ噂だと思うんだけど。でも確かに、けうけむさんは、ヤブローさんとフランソワーズさんがあやしいみたいなこと言ってたしな。
「俺とフランさんのこと言いふらしてるのあいつだし。男女関係のことって当事者のことでしょ。関係者が気にするだけで。ああいう、彼氏いない歴イコール年齢みたいな不細工な子にいわれたくないですよ。基本、俺、嫁ラブなので。自由にさせてもらえるのも奥さんが彼女だからなわけで、俺は奥さん至上主義ですよ。フランソワーズさんは、同じ趣味の中で気を遣わないでつるむことができるヒト。意外とおっちょこちょいでかわいいし。デブだけど。」
あー、わかる、とのど元まで出かかって、さすがに失礼かと思って飲みこんだ。
「まあ、若いから許されることと、そうではないこともありますよね。」
また無難な応答してるよ、俺。つまらないな、俺。よし、たまにはちょっとキッレキレのこと言ってみるか。
「どうします。中華のランチに来ちゃったぁ~って。いたりして。」
「さすがにないでしょ。午後一の香港行きだって聞いたし。もしいたらドン引きでしょ。」
「うーん。いや、これ、ちょっと見てくれます?言ったら悪いかなって思って、俺の胸にしまっておこうと思ったんですが。この話がでたんで。この画像。スクショ送ってもらって、俺も確認したんですけれど。これ、俺のスーツケースなんですよ。今回持ってきてるやつ。部屋を見たいというから、仕方なく入れたら。さすがにないですよね。場所もわからないし、俺のスーツケースだって、気づかない人のほうが多いだろうけれど、さすがに…。」
「え?そうなの?ひどいね。これ、あの匿名掲示板でしょ?そこに、個人特定できる持ち物を全世界に発信ってことでしょう?」
「俺、そういう匿名掲示板見ないんで、気づかなかったんですけれど。悪気なくやったんですかね?てか、前の趣味の時はバリバリやってたんですけれど、航空の方になってからは一切みてないんですよ。先入観持つのは負けだと思っているので。たまたま、知り合いが、これ、って言って、スクショくれたんですよねー。引きますよねー。ドン引き。」
「引くわ。昨日だって、カクテルタイムご招待してあげたんでしょう?それなのに、これ?意味わからないね。若いからというよりも、もうキャラクターの問題じゃない?てか統失?」
「なんかスミマセン。こんな景色がいい所で、美味しい御飯もあるところで、こういう話したくないんですよ。俺、仕事でも人間関係のいざこざを解決というかおさめる係りなので、非日常ではこういうの嫌なんですよね。正直いうと。スミマセン、愚痴みたいになったわ。」
「いや、やっぱり赤青さん、人格者だー。ほらスイートラウンジで横にいた時も、俺らうるさくて、結構じろじろ見られてる感じあったけど、赤青さん、見て見ぬふりしたでしょ。いや、悪い意味じゃなくて。あれ、一人がユーチューバーなんですよ。まだチャンネル登録が1200くらいしかなくて、なんでもとにかく動画動画なんで。正直見ても全然おもしろくないの。やたらぼそぼそ早口で。何言ってるかさっぱりわからないし、自撮りするほどイケメンじゃないし。正直きもいよね。でももう仕方ないって俺らは諦めてるけど、まあ、普通、引くでしょ。でも赤青さん、見逃してくれたし。」
俺、人格者とか初めて言われた。まじか。俺、人格者か。ちょっと、かなり、うれしいかも。
「いや、そんなことないですよ。至らないことだらけ。航空も知らないことだらけ。フライトレーザーも初めて聞いたから、キタックしたら、ちゃんとPCでぐぐろうと思っているんです。」
「それ、ちがうよ。フライトレーダーだよ、これ。」
と笑いながら、アプリのページを見せてくれた。俺、間違えてたんだ。フライトレーザーじゃないんだ。フライトレーダーか!でもそれをさらっと訂正してくれるヤブローさん、いい人だ!
「こんなのがあるんですね。知りませんでした。ありがとうございます。教えてくれて。」
「便利だから、アプリ入れたほうがいいですよ。あ、そろそろ、行きましょうか。いったん、部屋行って、すぐ荷物まとめちゃいますが、待っててくれます?それから、行ったり来たりになるけど、grabでセントラル行って、それからリッツ行きましょうか。急げばマッサージ行けますけれどどうします?13時から麗苑予約してあるみたいだし。」
マッサージもいいけれど、時間読めなくなると、フランソワーズさんを待たせたらいけないから今回はやめておこう。それが正解だ。
ヤブローさんも、そうだな、ラリッパさんも、$honさんもみんな分別のある大人だ。やはり同年代のほうが付き合いやすいかな。噂話は嫌だけれど、純粋にもっとヤブローさんのこともラリッパさんのことも、$honさんのことも知りたくなって、それで、ヤブローさんに聞いてみた。
「ラリッパさん、みんなにああやってもてなすんですか?」
「あー、そうみたいねー。一人で結構寂しいみたいだし。聞いた?」
「ああ。まあ。なんと言っていいか。」
「ツイッターで人と絡む時は、空気読めてないこと多いけれど、基本、世話焼きのいい人だよね。だから今回もこのメンバーになったんじゃないのかな。問題児にもやさしかったし。」
「ホスピタリティがすごいですよね。」
先日、ネットで検索している時に出てきて知った新しい言葉を使ってみた。ホスピタリティ。おもてなし、よりかっこいいよね。
いよいよ次回最終回!
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