えっ?なんのこと?いきなり呼び捨て?ぱろんさんとYUURIママさんがもめたのは知ってるけど、YUURIママさんはどこ吹く風だし、メンタルもめっちゃ強いし。ただ、カンパイには弱いけど。なんで、それをフランソワーズさんが俺に警告するわけ?意味わかんないや。まあ、でも俺、調子乗ってしまうことあるし、気を付けておいた方がいいかも。
「ありがとうございます。」
といっこく堂の腹話術ばりの口の動きと小さな声でお礼だけ言っておいた。それにしてもけうけむさん、あまり話さないし、ここに居て楽しいのかな?
滞在先は見事にバラバラだった。フランソワーズさんはリッツ、けうけむさんはホリディイン、そして、ヤブローさんはグランドハイアットに宿泊。微妙に隣接はしていない。オフ会は、ラリッパさんが泊まるヒルトンのスイートルームでやるようだった。その前に、各自、ラウンジは探検して、集合は19時半。お部屋なので、22時半には解散という区切りをつけてやるそうだ。それは合理的でいいな。
スケジュール的には、小籠包のあとに、各自ステイ先のラウンジを見て、それから、ヒルトンか。良かった、ルメリにしておいて。隣のホテルだから移動がラク。SPGアメックスのおかげで、おれもプラチナでラウンジ使えるし。
ヤブローさんとフランソワーズさんは初見ではなく、お互いLINEの交換をして、本名も知る仲らしい。オフの前はフランソワーズさんは、ヤブローさんの泊まるグランドハイアットのカクテルタイムにご招待されているらしい。オフの間は、ヤブローさんは、KULにいるお友達と会って、その後に、フランソワーズさんと新峰肉骨茶に行くんだって。だからフランソワーズさんはオフを早抜けするって。
ヤブローさんはハイアットのグローバリストだということもさりげなく言っていた。赤青ダイヤにグローバリスト。青ダイヤで、IHGのスパイアも持ってるし、ステマからのプラチャレで、マリオットもタイタニウム。もうヤブローさんの通ったあとにはぺんぺん草も生えないよ。リサイクルショップ、儲かるんだな。すごいな。航空・ホテルのステイタスがそれだけ重なるともうその人自体の人格まで上になったように見えちゃう。
俺、ハイアットなんか泊まったこともない。15年前に一度だけ、結婚式に呼ばれていったことがあるくらい。それも当時のセンチュリーハイアットね。水戸にもハイアットホテルってあるみたいだけれど、それが、グループじゃないことはさすがに俺もずっと前から知っているけどね。
フランソワーズさんがヤブローさんのカクテルタイムにご招待されていることを知って、ラリッパさんが、
「うーん、けうけむさん、あれでしょ、ホリディインだから、カクテルタイムないでしょ?時間つぶせる?ヒルトンのほうに、けうけむさん、来てもらってもいいけれど、スイート・オフ会の準備あるからなー。僕は、カクテルタイムいけないんですよ。いったん、買い出しもあるので。一人で使います?」
とけうけむさんを見た。すると、けうけむさんは、無言で、俺を振り返り凝視した。
「あー。差支えなかったら、赤青さんの方に合流したらいいんじゃないの?ルメリのほうがずっとゴージャスだし、いいものあるから。赤青さんだったら紳士だし、けうけむさんも安心でしょ。」
とラリッパさんが余計なことを言うと、けうけむさんが、うなずいた。
えー、なんで、ついさっき、俺、フランソワーズさんに警告されたのに、なんで、けうけむさんと二人っきりでカクテルタイム???俺の自由どこよ??まあ女子学生と一緒にカクテルタイムなんて、疑似パパ活みたいでスリルはあるけれど、えーーーー。やっぱり嫌だよ。
でもここで俺が嫌というと、けうけむさんに恥をかかせることになる。それは良くない。
「おー、いいですよー。ただ、僕、今回、初滞在なので写真撮りまくりますけどいいですか?」
「私も撮りたいです…。」
とけうけむさんはまんざらでもない様子で言った。
いったん、人々は解散して、けうけむさんのホリディインまで付き合って、着替えを待つことにした。10分くらい待っただろうか。着替えをしてきたけうけむさんを見て思わず、「ぎょぎょぎょ」とさかなくんになりそうになった。なんていうのかな。フレアスカートっぽいんだけど、どう見ても、腰みのみたいに見えちゃう。若いのに、おしゃれしないんだな。YUURIママさんは、ふくよかだけど、美意識はちゃんとある。こぎれいにして、ネイルもエクステもやっている。けうけむさんは若さに甘えてるな。うーん。これじゃ疑似でもパパ活なんかコスパ悪くてできないよ。
でも、今日だけ。今日だけ。あと数時間。数時間だけやんごとなく過ぎればいい。はじめましてだし、気分良く過ごしてもらいたい。日本を担う次世代にはやさしくしなきゃ。それに明日は別行動だから。
「おっ。パンツから雰囲気変わりましたね。」
と最大限の譲歩の言葉をかけた。「すごく似合う」「女の子らしい」なんて言おうものなら、これはハラスメントのデンジャーゾーンになっちゃう。ギリギリのところで声掛けをする俺、砂原浩次。やっぱり俺、会社で総務のプロとして重宝される理由自分でわかるわ。相手を不快にさせないように上手にやってる。それにお世辞でもそんなこと言えるレベルじゃない。
そこからはセントラルまで、grabを呼んだ。良かった、ちゃんとアカウント作っておいて。けうけむさんが当たり前のように「grab呼べます?」と言ったのは気になったけれど、若いし、まあ仕方ない。俺の経験値もあがるからいいか。
「ちょっと部屋も見てみたいです。」と車を降りたときにけうけむさんが言った。えっ?と思ったけれど、断ると逆に下心があるように思われるかもしれない。ただ、俺、もうシャワーも使ったし、仮眠もとったから部屋あんまりきれいじゃない。
「いや、さっき、シャワー使ったりしたから。」
「ターンダウンきてるでしょ。構わないです。」
は?ターンダウン?なにそれ?わからない。でもけうけむさんがあまりに自信ありげに言うのでそこは譲っておいた。部屋はわざと、鍵をロックしないで、入ってみると、ほう、さっき、寝たベッドのシーツがきれいになっている。これがターンダウンか。また一つ学んだ。
「いい部屋ですね。やっぱり学生だと、高くて無理。」
とぶっきらぼうに言った。そして、さらに切り出した。
「あの。赤青さん、YUURIママさんとつるんでますよね。でも、気を付けたほうがいいですよ。あの人、裏で何してるかわからないし。ぱろんさんも、濡れ衣着せられて、おしゃべり女の扱いうけてますし…。それに、ある匿名掲示板にめっちゃ人の悪口書いてるんですよ。私、スクショも取ってあります。あれはまちがいなくYUURIママさんの仕業。普段の言葉遣いのクセがどうしてもでる。だから、ソースはその掲示板。」
は?匿名掲示板のスクショとっても本人特定のエビデンスにならないし。IPわかったところで、本人特定に行くまではなかなか難しいし。言葉遣いなんて普通に自由自在だろ。そもそも、YUURIママさん、裏どころか、表でも何してるか意味不明なところあるし、そんな掲示板書いて何かを攻撃したりするよりも、リアルで攻撃するし。俺、ジャッキーステーキでぶった切りされたし。
視野が狭いな。この子。まあ、まだ院生だから仕方ないか。
「そっか。ぱろんさん、濡れ衣か…。」
と、どっちにでも取れる返事をしておいた。YUURIママさんの本質に近い所はたぶん俺の方が詳しい。でもそれを今、けうけむさんに言う必要ないし。
「私、ブスで、まだ学生で未熟だから、信じてもらえないかもしれないですが、ネットは長いので、その点は見る目を養っています。」
といつになく滑舌よく言った。
「そっか。いろいろ体験してるんだね。俺は、まだ浅いから、教えてよ。」
と心にもないことを言った。俺は鉄道では、KOO1008。サイトの管理人までやってて、人のあしらい方はそれなりに分かっている。だけど、それを伝えてもけうけむさんがどう思うか読めないからムダかもしれない。だから言わない。
「いや、ほんとブスに生まれてなかったら、もっと楽しい人生だったと思います。せめてもう少し痩せていてスタイルが良ければ…。今、好きな人いるのですが、振り向いてもらえていたんじゃないかなーって。」
しらねーよ。俺、正直、けうけむさん、もうこの段階でうざいし。フランソワーズさんの警告もあったし、そもそも、みどりより服の趣味悪いし。それに、ブスがブスって自ら言ってもどうフォローしていいか、めっちゃ難しいし。そんなことないよ、なんてさすがに言えない。でも言っちゃう、俺…。
「そんなことないでしょ。笑顔もかわいいと思うよ。」
「ほんとですか?あの、言いづらいんですが、赤青さんを信頼して言います。フランソワーズさんも曲者ですよ。今回初めて会ったのですが、赤青さんの会社や、奥さんが保育士だということをどこからか聞きつけて、私に話してきていますし。あと、ヤブローさんともあれきっと付き合ってますよ。よく二人で海外で会ってますよ。不倫部ですよ。見え見えですよね。」
と大切な秘密を共有する得意げな顔で俺を見ながら言った。
めんどくさい。めんどくさい。俺、正直いって、フランソワーズさんもけうけむさんも全然ときめかないし、その人たちがなにしてても関係ないし。ヤブローさんともお好きにどうぞ、だし。なんなら、フランソワーズさんとけうけむさんがヤブローさんを奪い合ってて乱れても関係ないし。俺、そんな暇じゃないし。だいたい、そういうことを陰でいろいろ言って、お前は札幌支店のお局かっていうカンジだよ。札幌、ほんとに離職率高いんだよ。派遣さんもいつかない。ぜんぶそういう陰口言う人の所為。
でもここで、言い合っても、仕方ない。むしろ、俺、不利になる。密室で女子大生と、それも腰みのみたいなスカートはいてる女と言い合っても、俺がなにか変なことしてるみたいにしか見えない。
「いろいろあるんだね。せっかくだから、ラウンジ行こうよ。俺もまだ見てないから楽しみなんだ。」
と出来る限りの笑顔で言った。けうけむさんはうんうんとしながら、部屋を出た。
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