ジョイフル(2)

スポンサーリンク

二人はとても楽しそうに笑いながら話していた。みどりがゴスペルの話をしていて、くぅさんはそれをにこやかに聞いている。くぅさん、副業でサイトをいくつも作っているだけあってさすが聞き上手だ。あと引き出しもたくさんあるからどんな話をされても平気なんだろうな。引き出しはやはり多い方がいい。

今日なぜ、「3人でDP北なう!」なのか、というと、10日前にさかのぼる。あ、今日は予測変換いれていないし、ツイートもしていないよ。

興奮すると、みどりはルー英語みたいに、カタカナまぜる癖があったけれど、ゴスペルを始めてから、それに拍車かかった。もう結構意思疎通が難しい範疇になりつつある。ちょうど10日くらい前かな。帰宅したら、いきなり言われた。

ヘイ!こうちゃん、ネクストウィーク、あっ、ウィークエンド、福岡でスッペシャル・ワーッショップあるから、アイワナゴーなの、こうちゃんといくと、ラウンジ使えるんでしょ。カレーパンたべてみたいわー。ダディのマーイル使ってレッツゴー トゥギャザァ。」

なんだそれ?とにかくお義父さんのマイルなら俺はいいよ。ちょうど代休もたまってるし。使え、ってうるさいし。

「いいよ。来週末ね。金曜から?それとも土日?」

みどりに関しては良い所探しをしていけばいい。へんてこだけれど、いいところを見ればいい。へんなことにこだわったら損だ。それに、引き出しがある人がいいという意味で、みどりのゴスペルは大賛成だから。今まで時間に追われていてなにかをするということもなかったのに、自分のやりたいことをやっていてうれしそう。だから俺もなるべく協力している。

俺にとってもいいことがあるからね。

なにより、みどりが、家で口うるさくなくなった。それはとても大きい。ゴスペルの仲間に感謝してもしきれないくらい。

そのかわり鼻歌やへんてこな振り付け練習をしていて、それを「見て」と言われるうっとうしさはあるけれど、それはそれでいい。見てるふりして、「やるなぁ」「すごい」って言えばいいだけだから。

それにしてもゴスペルはなんであんな雨乞いみたいな振り付けなんだろう?みどりは、一応運動神経は悪くないから、みどりの動きがおかしいわけじゃないだろうに、本当に雨乞いにしかみえない。ゴスペルチームには男性もいるというけど、あの雨乞いの舞いを一緒にやるのか?俺には無理。なんで40過ぎて雨乞いやらないといけないわけ?

あと、練習のたびに、飲み会があるみたいで、そのたびに泥酔して帰宅するのはちょっとうっとうしい。でもそれもたかだか月イチくらいだし、それを笑って容認してあげるのが共働きの夫のすることだと思っている。

練習日は決まっていて、そのスケジュールは冷蔵庫にポストイットで貼られている。俺に対するアピールだ。それ以外に、突発的に飲み会に行くと言うこともないし、お義母さんの理解や手助けもあるから、俺が早く帰らなければいけないということもなく、恵まれているのかなと思う。俺は誘われても絶対やらないけれど、みどりがゴスペルやっているのは本当に良いと思っている。

みどりがゴスペルを始めたきっかけは、市の文化祭だった。保育園として園児と出し物をすることになり、演目は合唱になった。そこで見栄えがいいから、ゴスペル風となったらしい。月1回ずつ、保育園で英会話を教えてくれる米国籍の人が歌が好きで、練習の応援をしてくれるし、園児が英語で歌ったら、文化祭っぽくてかっこいいから、ということもあった。

でも実際はもめたらしい。園児の親にとある宗教のバリバリの信者がいて、「ゴスペルなんかとんでもない!」とどなりこんできたって。すごいね、宗教。いいじゃないか、と思うけれど、受け入れられないって。歌ったのは、「oh happy day」だったんだけれどね。その中にある「ジーザス」が気にくわないって。♪オーヘピーデー♪って歌う代わりに、その子にだけ、♪なみょーhー(以下自粛)♪とか、ジーザスのかわりに、でーs(以下自粛)ってやろうとさせたみたい。

Sister Act 2 – Oh Happy day

でもさすがにそれはちがうだろうということで、結局、かわいそうにその子だけは不参加ということになった。歌そのものは単調だし、カタカナで覚えやすい歌詞。それに、順番に歌いまわすことができて、子供ひとりひとりに見せ場を作ってあげれるからいいということでそのまま発表会はやることになった。

俺もそれは見に行った。駅前の広場でやったけれど天気にも恵まれていて思いのほかよかった。子供がやると雨乞いには見えないから不思議。みんな愛らしかった。キッズダンスをやっている子はカッコイイ振付をばっちりキメていたし。ノリノリの親は子供の髪を編み込んで飾ってみたりして一つのイベントのようになっていた。それが好評で、さいたま県庁にも呼ばれて歌ったので、ますますみどりもその気になって、そのノリで、習い始めちゃったみたい。どこに、きっかけがあるかわからないね。

そんなこんなで、10日前に話が出て、なに?講習会?そういうのがあるみたいで、とんとん拍子に、福岡行きが決まって、今日の日を迎えたわけだ。

福岡行きが決まってからのみどりのテンションはすごかった。課題曲らしいのだけれど、もう2秒くらい暇があったら、

Joyful, joyful by Sister Act 2

じょいっほっじょいっほーぅいあどーじー

って歌っている。これが耳について離れない。たぶん、第九だよな、これ。その節に何かわからない呪文みたいな言葉をつけて歌っている。年末でもないのに第九だよ、と思って季節感のなさに辟易したが、なるべく我慢した。しかし、つい、うっかり、言ってしまった。

「ねぇ、第九がゴスペルなの?」

俺は朝ごはんを食べながらだったから言わなければいいのに無防備だった。

「は?大工?なんのこと?これはジョイフルジョイフルだよ。なんで大工なの?意味わからない。それより、もう、トップガンも復活するんだから、早く天使にラブソング3やってもらいたいよ。その想いをこめて、ジョイフル歌うんだよ。こうちゃん、なにもドンノー・アットール(don’t know at all)なんだね。」

無駄だった。余計なこと尋ねなければよかった。

「そっか。ごめんごめん。悪かった。よくわからないけど。それで、福岡では、みどりはどういう予定なの?」

コメント

タイトルとURLをコピーしました